『復讐者に憐れみを』

復讐者に憐れみを』 ★★★☆
製作国:韓国 公開年:2005 配給:シネカノン 上映時間:117 分
監督:パク・チャヌク 脚本:イ・ジョンヨン/パク・リダメ/イ・ムヨン
出演:ソン・ガンホ/シン・ハギュン/ペ・ドゥナ/イム・ジウン/イ・デヨン/チ・デハン/他

これは・・・・・とにかく、落ち込んでる時に観ちゃいけない映画です。特に誰かに依存したい時とか、絶対、観ちゃダメです。ちょっと死にたくなります。あと、ウキウキしてる時にも観ない方が。テンションだだ下がりになるのは間違いないです。これはすっごくフラットな状態の時に観て欲しいです。何も無い時に。私はそんな状態の時に観ても弱冠凹みましたが・・・・・・・・なんつー救いの無い映画だ。ここまで徹底的に何の救いも無い映画はあまり観た覚えが無い気がします。しかし、世の中ってこんなもんかもしれない。妙に冷静に観てる自分もいたりして。この映画の視点がフラットだからね。キャラクターの誰にも寄っていない、全てに一定の距離を置いてある。無機質な感じなの。だから突き放して観れる部分はあります。しっかし凹むなぁ。(苦笑)
私は作品に娯楽を求める方なので、この映画は好みでいうと、あまり好きじゃない映画です。でも、作品としての完成度は高いと思います。役者の演技も一級だしね。あ、ペ・ドゥナのヌードとベッドシーンが観れるという価値もあるな。(笑)彼女の裸は細身なのに妙に生々しいですよ。私が男だったらクルと思います。でも、ペ・ドゥナのヌード目的にして手を出したらいけない映画だな。とんだカウンターパンチ喰らいますよ。






=======※以後ネタバレあり=======

生まれ付き耳が聴こえないというハンデを背負った青年。その姉は腎移植をしないと死んでしまう病気を抱えている。しかし、腎移植の手術の順番はいつまでも回って来ない。姉の容体は日増しに悪くなっていく。焦った青年は臓器を斡旋する裏組織に臓器提供を依頼するが、腎移植の為に溜めていたお金を組織に盗まれてしまう。おまけに組織は青年の腎臓まで盗んでいった。その後すぐ、姉に腎移植の手術の順番が回って来た。しかし、組織に手術台を盗られてしまって金が無い。おまけに、青年は会社から一方的に解雇されてしまっていた・・・・・・・初っ端から渡鬼も泣いて謝るほどの怒涛の超不幸。不幸の万国博覧会ですよ。
この不幸を打開すべく、青年は身代金目的の誘拐という犯罪を犯すんですが、それがどんどん本人の望んでいないあらぬ方向に進んでいって・・・・・・・結局、そこまでして助けようとした姉は自殺。無傷で返そうと思っていた人質の幼い娘は不慮の事故で溺死してしまう。こんな不幸な話聞いた事ないですよ。(泣)そっからはもう目を覆うばかりの不幸の連続です。営利目的で誘拐殺人を犯したという形になった青年はソン・ガンホ演ずる幼児の父親に復讐の標的とされる。ソン・ガンホが演じていた父親は、誘拐事件までは本当に普通のおじさんだったのに、一人娘の死で復讐の鬼に変わります。普通の父親だった男がどんどん犯罪に手を染めて、残酷な復讐劇を進めていく姿は怖過ぎる。ソン・ガンホが淡々と無表情に演じてるだけに余計に怖いんです。そんな父親の復讐がまた違う復讐を呼び、正に復讐の連鎖が起こっていくのですが・・・・・・・最後は見事に何も残らないんですよ。何もかもがスッカラカンになって映画は終わります。そこには何の救いもない。ああ。
オールド・ボーイ』と違って、この映画は完全に娯楽的な要素を一切排除してあって、カメラは人物の行動を写し取るだけ。画面からは監督の思いすらも排除してあるように感じます。延々と事実だけを突き付けられてるみたいな。全く逃げ場がないんですよね。それで、これを観てお前はどう思うよ?って試されてるような。結局、パク・チャヌクは何を描きたいんだろうなぁ。世の中の不条理なのかな?あまりに救いが無さ過ぎるもんなぁこの話。それとも、人間の弱さを描きたいのかな。この映画は復讐って行為を否定も肯定していないんですよね。復讐というのはそこから何も生み出さない非生産的で利己的な行為ではあるのですが、それが生きる目的になってしまうのが人間の悲しさであり。誰かに復讐をするという事が唯一の生きる力になる場合が人にはあるんですよね。パク・チャヌクが『復讐三部作』として、『オールド・ボーイ』、近日公開予定の『親切なクムジャさん』、そしてこの『復讐者に憐れみを』と三作も復讐という題材の映画を描いているのは、そういう人間の弱さを描きたいんでしょうか。だって、復讐が目的でしか生きられないなんて、凄く弱いですよ。生命として、ほぼ生きる意味を放棄してるんですから。でも、そんな生き方しか出来ないという・・・・・・・・悲しさ。こういう弱さが愛しかったりするんですよね。これは否定、肯定、許す、許されないとかいう範疇じゃないなぁ。こういう事を考えると何が正しくて、何が間違ってるのか分かんなくなってきますね。(苦笑)
パク・チャヌクの映画は人間の『弱さ』を感じるけど、不思議と『醜さ』は感じないんですよね。この救いようの無い映画で唯一の救いはそこかもしれない。