『はてなダイアラードラマ百選』

きらきらひかる

放送年:1998 放送局:フジテレビ
脚本:井上由美子
演出:(1、2、5、8、10話)河毛俊作/(3、4、7、9話)石坂理江子/(6話)桜庭信一
出演:深津絵里(天野ひかる)/柳葉敏郎(田所新作)/松雪泰子(月山紀子)/篠原涼子(杉冴子)/石丸謙二郎(喜多村隆三)/林康文(綾小路真)/野村佑人(森田和也)/小林聡美(黒川栄子)/鈴木京香(杉裕里子)/他

(参考URL→http://www2.ocn.ne.jp/~ni-drama/kirakira.htm

私は、このドラマを本放送の時に全話見たのですが、ビデオ録画しておらず、ドラマ百選を書くに当たり、レンタル屋でビデオを借りて、全話見直しました。このドラマを見たのは、ほぼ7年ぶり。リアルタイムでの放送以来です。それで内容を忘れてるかと思ったんですが、殆どのシーンを覚えてたんですよね。当時、ビデオ録画してなかったので各話1回しか見ていなかったのに、どのシーンもちゃんと見覚えありました。1つ1つのシーンが印象深いのもあるんだろうけど、それだけ、のめり込んで見てたんでしょうね。
でも、全話見ていたのに、どのお話も結末を知っていたのに、私は久し振りに見る『きらきらひかる』を心底ワクワクと楽しんで見れました。先を知ってるのに続きが気になって気になって。そりゃ、さすがにセリフ一言一言までは覚えてなかったので、新鮮には見れたんでしょうけど、昔に見たドラマなのに、睡眠時間を削ってまで、先を見てしまいました。結局、全10話を3日ぐらいで見ましたねぇ。勢いでスペシャル(1999年、2000年に放送)まで見ちゃいました。本当に面白かったですよ。
このドラマを見終わった後って体温が1度、2度上がったみたいに体が熱いんですよね。一種の興奮状態なんでしょうか。そういや、7年前もこのドラマを見て体を熱くさせてたっけ。7年ぶりにまた体がジンと熱くなりました。
そう、このドラマは熱くなるドラマなんですよね。ただ、泣けるとか、ただ、感動するとかっていうんでなく、グっと体が熱くなるドラマなんです。



これは死体を解剖する『監察医』のドラマです。メインキャラクターの5人のうち、天野ひかる、田所新作、杉裕里子、黒川栄子の4人は監察医。唯一、月山紀子だけが刑事です。監察医とは原因が分からずに死んだ人の死因を特定するお医者さんの事で、事故、事件、自殺など何が原因で亡くなったかを探るのが仕事です。病気以外で死んだ人は解剖を受けて死因を特定しないと、遺体を火葬する事は出来ないそう。これはこのドラマで知った知識なんですけどね。監察医が事件の可能性があると判断すれば、そこで警察が捜査を開始出来るのですが、例えば、殺害された死体であっても監察医が『事故』、『自殺』と判断してしまうと、警察は捜査すら行わずに、その死体は火葬されてしまう訳です。そのまま、事件はずっと闇に葬られてしまうんですよね。これは凄く怖い事。それだけ、監察医とは重要なお仕事なんです。その重要な『監察医』の仕事を扱ったのがこのドラマ。しかし、私達一般人には『監察医』というのは馴染みの薄い職業です。『警察』を扱った、いわゆる『刑事ドラマ』は数多くあれど、この監察医を扱ったドラマというのは、『きらきらひかる』より前はあまり無かったように思います。だから、当時の視聴者には『監察医』の知識は皆無に等しかったと思うんですよね。この『きらきらひかる』の成功点は、馴染みの無い『監察医』という仕事を、視聴者に分かり易く図解して説明してくれた所でしょうか。難しい医学用語や症例をCGやテロップで上手く説明してくれたおかげで、分かり易く見れたんですよね。それと、このドラマは新米監察医の天野ひかるの成長を描いたストーリーなので、新米の天野ひかるの目を通して、監察医という仕事が描かれていくので、『監察医』という世界観に入り込み易かったというのもあるでしょうね。
こういう一般的に馴染みの無い職業を深く扱った『職業ドラマ』は、この『きらきらひかる』は先駆者的存在だったかもしれません。亡くなった人の死因を探るという、一見、地味に思えるストーリーなんですが、この死因を探るというのが、なかなか一筋縄ではいかない。当然ながら死体は死んでいるので、誰に何も訴える事が出来ない訳ですから。そんな物言わぬ証言者から、答えを導き出していく様が、このドラマの面白さでもあるんですよね。


改めて見直して、井上由美子の脚本の素晴らしさに驚かされました。あまり安易に使える言葉じゃないけど、『完璧』と思いましたね。完璧な脚本だと。話の構成としては、1話完結方式の中にきっちりと連続性のあるストーリーを組み込んであり、1話完結ながらも連続性もあり、見ている方を油断させない作りになっています。それでいて、連続性を持つエピソードが1話完結のメインストーリーの邪魔をしておらず、1話1話を単体で取り出しても、きっちりと1話の話としてまとまっているのが凄いんです。連続ドラマでは、1話完結方式といっても、1クールの中盤から後半に掛けては、連続性を持つエピソードがメインストーリーを浸食しがちなんですが、このドラマは最終回、最終回前の2話までは、そのエピソードを軽く散りばめている程度で、最後の2話で散りばめていたエピソードを結び付けて終わらせているのが素晴らしいんです。本当にお見事な脚本だと思います。

そんなストーリー構成も素晴らしいのですが、私がこのドラマで一番感心させられたのは、キャラクターのぶれの無さです。これは45分の話を10、11話も描き続ける連続ドラマでは大変難しい事だと思うんです。このドラマのキャラクター達って、現実的に見せ掛けておいて、実はかなり非現実的なんですよね。だって、矛盾が無いんですよ。それが現実には有り得ないんですけどねぇ。でも、ドラマの中では現実離れしてるとは感じないんだなぁ、これが。
ドラマとはその名の通りドラマチックな話の展開を求められるもので、何かしら問題が起こらないと『ドラマ』にならないんですよね。キャラクターがずっと順風満帆に生活を過ごしていくドラマなんて有り得ないと思います。問題が発生する、壁にぶつかる。そこには必ずといって挫折、失敗があるものです。その挫折を乗り越えてキャラクターが成長していく訳なんですが、その成長していく様を魅力的に描いている作品は多いのだけれど、その前の『失敗』や『挫折』のエピソードに付いて重きを置かれていないというか、割といい加減に描かれがちだと思うんですよ。突然の事故だとか、当事者に全く過失の無い不幸により『失敗する』「挫折する』で済まされる場合が多いと思います。それと、キャラクターの性格を捻じ曲げて無理矢理に挫折に導いたりする荒っぽいものもあったりしますよね。よくあるでしょ?●●●があんな事するかなー?って思う事。私はドラマを見ていて、その辺で苛々させられる事が多いんですが、この『きらきらひかる』のキャラクター達は違うんです。彼らの中には揺るぎ無い信念というものがあり、その信念を貫いて、壁にぶつかり、そして失敗するのです。でも、失敗しても決して信念は曲げない。それが気持ちいいんですよ。
例えば、主人公の天野ひかるには『死体が語れない真実を探す』という彼女なりの仕事のスタイルがあります。死体が生きていた時の様子や、その性格などを考慮して、死体の解剖をするのが彼女のスタイル。そこには死体に対する思い入れや推測もあり、その先入観のせいで、大事な死因を見逃してしまうというミスを犯したりもします。その事で彼女は落ち込み、反省はするものの、かといって、今までのスタイルを変えたりしないんですよね。杉裕里子も同じ。彼女には『生きてる人間は嘘をつくが死体は嘘をつかない。死体の持つ真実を追う』という、天野ひかるとは真逆の信念があるんですよ。しかし、そんな彼女も壁にぶつかります。死体が持っている情報だけでは辿り着けない真実というものに。そんな彼女に立ちはだかる壁を乗り越える手助けをする人物がいます。それが杉裕里子と真逆のスタイルを持つ天野ひかる。このドラマのグっと胸が熱くなる部分はここなんです。真逆の考えを持つ人間が、真逆だからこそ、互いに足りない部分を補い合い、解決していくんですよね。そして、例え相手の持つ信念が素晴らしくとも、自分の持つ信念は曲げないし、変えないんです。相手を肯定して、自分も肯定出来るんですよね。正反対の考えだからといって、どちらかが間違ってるとは限らないんですよね。正しい答えは1つじゃない。だから、皆が互いに助け合い、答えを出し、解決していく。この強さに私は惹かれるんです。
きらきらひかる』のキャラクター達はどれもこれも我が強く、マイペースで頑固。でも、そんな彼らが互いにぶつかり合い、しかし、相手を肯定して、助け合っていく様が熱いんですよ。それぞれの我が強いだけに余計に。そして、各々が確固とした信念を持ってるので、馴れ合いにならないのが良いんですよね。とても理想的な関係です。
そんな一筋縄でいかない頑固なキャラクター達。先に上げた主人公の天野ひかるは真っ直ぐで純粋な新米監察医。そんな彼女が目指しているのがいつもクールな非常勤の監察医の杉裕里子。その杉裕里子と何かと対立するのが熱血エリート刑事・月山紀子。そんな2人を我関せずと傍観している黒川栄子は女性メンバーでは最年長のベテラン監察医。そして、それら全てを一歩離れて見守っているのが医務院部長の田所新作。このキャラクターのポジショニングが絶妙なんですよね。その他にも、月山の部下の森田刑事や監察医務院メンバーの喜多村、綾小路など脇役達も、しっかりとした個性があって楽しませてくれます。どのキャラクターも個々に魅力を持ちつつ、他のキャラクター達との関係性が面白かったりするんですよね。月山紀子なんて、エリートでありながら捜査の為なら行き過ぎる行動も惜しまない、とんだ『あぶない刑事』なのに、田所新作に淡い恋心を持っているという乙女な部分を持ち合わせてたり・・・・・・・・・・・彼女からの田所への愛の告白は必見ですよ。これは見てのお楽しみ。
あと、このドラマを語る上で外せないのが、天野、杉、黒川、月山の女4人がとあるイタリアレストランで繰り広げる女同士の会話。これが毎回、ドラマの冒頭部分と終わりに挿入されるんですが、この冒頭の会話が、その回のストーリーのちょっとした前振りになってたりするのも洒落が利いてるんですよね。うーむ、井上由美子恐るべし。仕事上でぶつかり合ったりもする4人が、仕事を離れたレストランでは他愛無い会話をしながら楽しそうに食事する姿はホッと出来るんだなぁ。常に『死』という重いテーマを扱ったドラマだけに、このレストランの風景はただ一息を吐けるというだけに留まらない温かさを持ってるんですよ。この辺の緩急も絶妙だと思いますね。
キャラクターを演じる俳優陣も、勿論、魅力的です。深津絵里の持つ可愛らしさとひたむきさ、鈴木京香の持つ聡明さと凛とした空気、松雪泰子の強気な中に脆さの見える繊細さ、柳葉敏郎の温かみ、小林聡美の持つユーモラス。それぞれのキャラクターに俳優の持つ1番の個性が活かされてると思います。まるで当て書きされてるかのようなキャラクターと演じる俳優のフィット感が心地良いです。毎回登場する豪華なゲスト陣も同じく。特に2話の梨本謙二郎、3話のもたいまさこ、4話の山本学、それと準レギュラーの篠原涼子も役にピッタリでした。そういう絶妙なキャスティングも、このドラマの成功に欠かせない要因でしょうね。



まだまだ、このドラマの良さを語るには足りないのですが、私があれこれ長く書くよりも、『百聞は一見にしかず』です。まだ、この素晴らしいドラマに出会っていない人は、是非、見て欲しいです。そして、昔見た人にも、改めてもう一度観て欲しい作品です。また、違った面白さが見付かると思いますよ。何度でも楽しめる作品です。
そうそう、このドラマはスペシャルが2回も作られてるんですが、その2つも凄く面白かったんです。連続ドラマからスペシャルまで一切外れ無し。凄いぞ、『きらきらひかる』!
このはてなダイアラードラマ百選は、連続ドラマの他にスペシャルドラマのレビューも認められているので、もしかしたら、この先誰かが書いてくれるかも?と期待を込めて、スペシャル版には触れずにおきます。でも、スペシャルも本当に面白い作品であるのは保証しますよ。

さて、次のバトンは、広角的なドラマレビューが素晴らしい修羅さん(id:shuranomiti)にお渡ししたいと思います。修羅さんはどのドラマに対しても一定の距離を置いてレビュー出来るのが凄いんですよね。偏ることなく色んな作品を見てる方なので、どんな作品を選ぶのか楽しみです。