『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』

『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』 ★★★★

製作国:日本 公開年:2007 配給:松竹 上映時間:145分
監督:松岡錠司 原作:リリー・フランキー 脚本:松尾スズキ
出演:オダギリジョー/樹木希林/内田也哉子/松たか子/冨浦智嗣/渡辺美佐子/伊藤歩/勝地涼/平山広行/荒川良々/千石規子/土屋久美子/田中哲司/佐々木すみ江/猫背椿/寺島進/小島聖/小林薫/他

試写会で観て来ました。これは、もう・・・・・・・・・・・・日本人なら一度は観ておこう。損は無い。損はしません。別に泣けるからいい映画って訳じゃないと思うんですよ。そりゃ、人が死んだり可愛い動物が死ぬと泣きますもん。それが『母親』だったら、そんなもん泣くに決まってる。泣かせようって気満々だな〜〜あざといな〜〜って分かってても泣いちゃう事だってあるもん。この作品はドラマにも何回もなってるし、ベストセラー原作なんで話の筋は知り尽くしてる。最後に母親が死ぬ話ってのは国民全員が知ってるっつってもいい。つまりは、泣いて当然。泣くのが当り前の作品なんです。いや、この映画を観て泣けなかったからってそれはそれで別におかしな事ではないですよ?涙腺の緩さは人それぞれだし、泣き所も人それぞれ。でも、私はこの作品を観たら確実に泣くだろうと思って観に行きました。そりゃもう予想通りに大号泣ですよ。涙腺大決壊。んなもんオカン死んだら泣くっつーの。そういや、ここまで直球に『オカン』とオカンの死を描いた作品ってあったかなぁ?昔はあったのかもしれないけど、ここ最近は無かったような気がするなぁ。実は、こういうのって敢えて避けて通ってたのかもしんない。特に男は。男は皆マザコンだから。(笑)

SPドラマ、連続ドラマ・・・・・・・・・ときて、真打の映画が登場。まぁ、映画のキャストを見りゃ、これが真打だなって大抵の人が思うでしょ。オダギリジョー樹木希林て。ガチ過ぎるっつーか、本気過ぎるっつーか。SPも観たし、連続ドラマも何回か観たんですけど、多分、映画観たらドラマは霞んじゃうだろうな〜〜って思ってたんですけどね。いや、でもやっぱどのオカンも、田中裕子にしても倍賞美津子にしても良かったから、オカンは色褪せないわ。ただ、『ボク』はね・・・・・・・・・・オダギリジョー観た後には、大泉洋速水もこみちももう全然霞んじゃう。同じ原作とはいえ、別の作品の役を比べるのはいいとは思えないけど、もうそれが正直な感想です。なんっつっても、オダギリジョーはやっぱ一番リリー・フランキーを受け継いでるんですもん。そりゃ、大泉洋や、ましてやもこみちなんぞ、全然フランキーじゃないからさ。これ見た目がどうこうじゃないんだって。持ってる空気の問題。リリー・フランキーの話なんだから、リリー・フランキーに似た空気の人が演じた方が話がしっくりとくるに決まってます。しかも、脚本が松尾スズキですよ?リリー・フランキー松尾スズキって・・・・・・・・・もう、何だろう、このダメな感じ。(笑)言葉で説明出来ないけどさ。そんなダメな空気に合ってるんですよ、オダギリジョーが。これはもう、演技がどうのとか脚本がどうので、どうこう出来るもんじゃないです。実際、この映画が一番、リリー・フランキーそのもののエピソード(ラジオDJで下ネタ等)を絡めてきて、本物のリリー・フランキー像が色濃く残ってたのに、映画を観てる時、一番リリー・フランキーを意識しなかったもん。大泉洋ももこみちも観てる時、どうしても本物のリリー・フランキーが頭を過ぎってその違いにガックリくる部分があったんだけど、この映画を観てる時の『ボク』はずーっと『ボク』だった。オダギリジョーの『ボク』だった。一番、リリー・フランキーを感じさせるエピソードが並んでたのに。これはリリー・フランキーも喜んでるんじゃないかなぁ。
オダギリジョーは今までもいい演技だなって思った作品が沢山あったけど、私は今回のボクの演技が一番好きです。めちゃめちゃ良かったです。ボクの演技にワンサカ泣かされたわ。樹木希林のオカンがいいのは当然って所があるけど、オダギリジョーが物凄くいいんだわ。ナレーションもいいし、細かい表情も凄くいい。このオダギリジョーを観ないとオダジョファンは死ねませんよ!(笑)あと、小林薫のオトンが存在感あったね〜〜〜。蟹江敬三も好きだったけど、小林薫のオトンも好きだ。とても可愛らしいし、多分、松尾スズキの脚本だからこそ、オトンの存在も大きく引き立ったんじゃないかな。ダメ男だから分かんだよオトンの気持ちが。(笑)ただ、オカンの存在は今まで映像化された作品の中で一番薄くなってたかもしんない。これは樹木希林が演じるからって事で、あまり強く描かなかったのかなぁ。樹木希林ってもう居るだけで存在感があるし、オカンだしね。母親は感じても、『女』を感じさせない女優さんだからなぁ。誰でもオカンに思えてくる。だから細かい説明は不要だったのかな。年老いてからのオカンのエピソードは少なかったように思います。あと、『ボク』からの視点が凄く重視されてたように思うのね。『ボク』から見たオカンに、『ボク』から見たオトン。『ボク』から見た世界。これは脇の役者が揃ってたので、バランスも丁度良かった。だから、オカンの死もオカンが死ぬから悲しいってよりも『ボク』のオカンが死んで、『ボク』が悲しいって感じかなぁ。うーん、上手く言葉に出来ない。『オカンの死』より『オカンに死なれたボク』に感情移入するというか。一番『ボク』が大事に描かれてたと思う。でも、『ボク』からの視点が大きい分、より『オカンの死』が大きいんですよね。息子っていうのは、母親に死なれるとこんなにも辛いのかと。
オカンの若い頃を内田也哉子が演じるっちゅー力技わね。これね〜〜〜さすがに経験不足っちゅーか、内田也哉子の演技は拙さがあったけど、やっぱ、説得力っつーのか、内田也哉子樹木希林になるってさ。本当にリアルで。若い頃の内田也哉子演じるオカンにはこう・・・・・・女としての色気みたいのがあるんだけど、樹木希林になると完全にオバさんになってててさ。もうめっちゃリアルなんよ。んでも、そのオバさんになった樹木希林のオカンが小林薫のオトンに見せる女の部分が可愛くって。余計に切なくなりましたもん。これは作品として凄く成功してんじゃないかしら。あと、『ボク』の子役時代が3段階ぐらいに分かれてて、その中で中学生〜高校生までを冨浦智嗣君が演じてるんだけど、これがまたすっごく良くってね。可愛らしくって。あとこの子は凄く間が上手いのよ。オトンの小林薫とのやり取りとか、本当に良かったもん。富浦ファンも必見よ。でも、ほんの一年も経たずに高校生ボクの富浦君から大学生ボクのオダギリジョーに当り前のように変化した時は倒れそうになったけどね。(笑)無理あるわ〜〜〜その一年は無理あるわ〜〜〜!!!でも、顔はあんま似てないけど、富浦君とオダジョの空気は似てて、いっきなり変わった時はブっ!ってなったけど、すぐに違和感無くなりましたね。
んでんで、今回、物凄く美味しい役だったのが勝地涼君!!『ハケンの品格』の時はもったいないお化けが出そうなぐらい勿体無い使われ方に感じたけど、この勝地君はめちゃめちゃ美味しい!そんなめっちゃ出番多い訳じゃないのよ?でも強烈なインパクトのある役で、観客にかなり印象の残る役なんですよ。ホント、私がもし、勝地ヲタなら、勝地君目当てだけで5回は映画館に観に行くな。(笑)あの勝地君はそんぐらいの価値はある。めちゃめちゃ美味しいと思うよ。しかし、勝地涼君、やっぱ上手いな〜〜器用だなぁ〜〜と感心させられたわ。でも、器用なだけに抑えちゃう部分もあって損な時も多いのかな。でも、こういうタイプの人が若手俳優にいるってちょっと嬉しい。あ、オダジョの友人兼マネージャーっぽい役の平山君格好良かったな。久し振りにカッコいい平山君を堪能出来た。女優では、松たか子よりも伊藤歩の方が印象に残ったかな。松たか子は彼女役なんですが、どうも、この作品の『ボク』の彼女って損な役回りな気がするなぁ。何かちょっと松たか子が勿体無かったかも。伊藤歩は綺麗になったな〜ってしみじみ思います。ちょっと前に流れてたサントリーウィスキーのCM、あれ良かったよね。あ、そうそう、福山雅治の主題歌『東京にもあったんだ』が凄く良かったのよ。この映画の主題歌が福山って聞いて、「え〜〜〜福山ぁ?」って思った事、心からお詫びしたい。福山って正直歌はあんまし上手くないんだけど、良い曲作るんですよね。でも、どうも『東京タワー』に合わん気がしてさ。しかし、さすがこの映画の為に書き下ろした曲だけあって、曲調も歌詞もピッタリでした。泣けるよ〜。

監督は、今まで何度もドラマ化されてる作品だってのを意識してか意識せずかは分かりませんが、とても映画らしい『THE・映画』って感じの作品に仕上がってましたね。あ〜〜このザラっとした画面の感じ。独特の間。いかにも映画のフィルムの中の空気。全部、本当にオーソドックスな邦画の空気で。その辺を踏まえつつ、松尾スズキの脚本をとても丁寧に映像化したって印象でした。松尾スズキの本はとってもユーモアがあって、キャラクターのセリフの掛け合いなんかも凄く面白くって。あんま説明的で無いのもいいね。ププって声を押し殺して笑う場面もあれば、声を出して笑う場面も一杯ありました。あと、今回の『ボク』が一番ダメな感じがしたのも、やっぱ松尾スズキ脚本だからだろうな〜〜〜〜あのダメさっぷり。やたら説得力あったね。(笑)でも、そんな風に笑えたり、ダメだったりする部分が強調されてるからこそ、より、オカンの死が切ないんですよ。悲しいんですね。そのオカンの死の部分とか、凄くあっさりと、出来るだけ劇的にならないように描いてあったんですけどね。やっぱ、笑える部分や幸せな部分が多い分、より悲しいんですね。それを松岡監督も松尾スズキも良く分かって作ってるんでしょう。そりゃ、泣けるわ。

本当、一回観て欲しいです。いい作品です。家族の有り難味が痛感出来る。きっと、誰でもオカンもオトンも大事にしなきゃって思えるよ。ただね、私は母親も父親も健在なんですが・・・・・・・・この映画をもう一回観るのは辛いです。やっぱり、オカンの死ってもう、本当に出来たら目を瞑って避けたいんですよ。いつか必ずやって来るもんだけど、そんなもん来る筈無いって、見ない振りで過ごしたい。でも、この映画はその部分を直球に抉ってくるので、物凄く辛いんです。その辺があまりこういう作品が作られなかった原因かもしんない。作り手側だって、本当は避けて通りたい道なのかも。これは本当に失った後だからこそ作れた作品だと思うわ。事実だから。創作でオカンとオカンの死を直球で描くのは無理だわ。誰にだってオカンって絶対的存在だから。だから、凄くいい作品だと思うんだけど、もう一回観るのには勇気が要る。またオカンの死に直面しなきゃいけないのが怖い。やっぱ、見ない振りしていたいもん。