『陰日向に咲く』

試写で観ました。

陰日向に咲く』 ★★☆

世の中のちょっと日陰にいる人間達の群像劇。題材的には大好物なんですよね。しかーし、監督が平川雄一朗、脚本が金子ありさという、テレビ屋×テレビ屋な上にこの2人とも今までロクな作品を作っていない。(泣)そして、この映画の宣伝が『岡田准一の泣きの演技が〜』とか俳優の泣き演技の競演が素晴らしいみたいな売り方してくれちゃっててさー。ダメだコリャって。(苦笑)だからさー全く期待してなかったの。で、観た感想は、やっぱり予想通りであり、それでも、あの監督にあの脚本家って負債を抱えながらも、まだ随分と観れる作品になってたなーって。所々のエピソードは秀逸。これ単純に劇団ひとりの話が面白いってだけかもしんない。映画を観て、原作を読みたくなりました。映画が面白いってより、「きっとこれ原作は面白いんだろうなぁ」ってさ。そんな映画。非常に残念な作品でした。
まず、主役である岡田准一の役、ギャンブル依存症で借金まみれのどうしようもない男の筈が・・・・・これに共感出来ないんだな。むしろ私はこんなダメ男大好きなのに。いや、どうしようもないダメ男ってだけならきっと良かったんだと思う。でも、他のキャラクターと関係を持たせる為か色んな肉付けされててキャラクターに統一性が無くて、苛立ちだけが残る感じ。あんな沢山の肉付けをしてしまっては群像劇の一キャラクターとしては消化し切れないよなぁ。もし、原作もああいうキャラクターなら最小限に省くべきだった。他のキャラがそうであるようにね。いまいち岡田准一のキャラクターに感情移入出来ないから売り文句の泣きの演技とやらも押し付けがましく感じるのね。大体、泣きゃいいってもんじゃないだろって。泣くっていうのはそこに行き着くまでの細かな感情が大事なんで。だからそれさえ描かれてたらむしろ泣かなくても感情は伝わってくるもの。この映画のキャラクター達はそこの感情の推移をセリフで進めて簡単に泣いてくれるので置いてけぼりを食らう。途中であーここで泣くんだなって予想出来るぐらい親切でさぁ。(苦笑)ここ泣き所ですよーって。んで、せっかくの良いエピソードでじんわりと来る部分でも変な邪魔が入って後に響かない。良い部分を逆に潰してる感じがしました。そんな訳で比較的深く掘り下げられてる筈の岡田准一のキャラが重たく感じるんだよね。その割りに共感出来なくて。で、他のキャラクターがあまり描かれてない印象を受けちゃう。それを無理矢理繋げてるから違和感を感じるんだな。元はそれぞれ独立した短編の主役達をあまりにくっつけ過ぎなんだよね。なのにアイドルのエピソードだけは全然繋がりが無い。バランス悪くてまたここでも違和感。でも、群像劇ってそんなにそれぞれのキャラクターに接点無くっても良いと思うんだけどなぁ。むしろアイドル話ぐらいの些細な接点でもOKなんじゃ?って。一見バラバラの人達にほんのちょっと些細な、意外な接点があるってのが面白いのにね。ちょっとこの映画はそれぞれ繋がり過ぎだったかしらん。それが上手く繋がってればいいんだけど、逆にそれぞれのキャラクターへの足枷になってたような。だからって訳じゃないけど、アイドル話は他と隔離されてるのが返って良かったかも。一番共感というか話に無理が無かったかな。最低限にまとめられてた。映画はあのぐらい説明が無い方がいいよなぁ。説明的と言えば、最後の方の宮崎あおいのセリフがね。アチャーって。ああいうのをセリフにするのは野暮ってモノだと思うんだよな。観る側各々に映画から感じ取って貰う事だろうって。あそこの宮崎あおいのセリフがこの映画の全てを象徴してた気がするわ。
俳優はどの人も割りと良かったんだけど、先に書いたように、キャラクターの感情の持って行き方に無理があるんで、せっかく熱演してる岡田准一にしても西田敏行にしても肝心の盛り上がる部分で何だか空回りに感じる。岡田君は一生懸命役に打ち込んでるのに気の毒に思えました。でも、映画があんな風に偏った形になったのは岡田准一がギャンブラー役で主役になったからだと考えると皮肉な結果なのかもね。宮崎あおいはとにかくキュートだったんで良しとしよう。逆に淡々としていた三浦友和、エピソードが抑え目だった平山あや塚本高史らの方がまだ丁寧に表情を撮られてたように思います。あと、この映画の陰の功労者は緒川たまきだろうなぁ。彼女が地味ながら実にいい仕事してるんだ。不思議な事に映画の中で大きく出ていない人の方が良く見えたのね。この辺がこの監督の実力不足なのかも。あ〜テレビ屋さんだなって。監督にしても脚本家にしても親切過ぎるというか、いちいちセリフで説明するし、でも肝心な細かな感情が切り取られてない。映画ってでっかいスクリーンで集中して観るもんだから、そんなに説明されて分かり易い演出されるとお腹一杯で胸焼けするんですよね。こういう親切で分かり易いのが今はウケるのかもしんないけど。小道具の使い方は良かったのになぁ。あとコミカルな部分は良かったですよ。
この映画、試写会の前評判がなかなか良くて。実際、私が観てる時も泣いてる人は多かったです。私みたいな辛口の感想は少ないのかな?と不安にもなりますが。なんかこんな感じ前にもあったな・・・・・・・・で、スタッフとか色んな要素がなーんか『涙そうそう』と被るなぁって。結果、似たような映画でした。(笑)役者は頑張ってるのに〜って感じも似てる。ただ、『涙そうそう』みたいに脇役を無駄遣いしてないし、(どの俳優も適材適所でした)、ストーリーは断然『陰日向に咲く』の方が面白い。これは好みの問題かもしらんけどね。でも映画としての評価は同じぐらい。作品だけの評価は★2つだけど、役者の頑張りと劇団ひとりに敬意を評して ☆半分。
あー勿体無い映画だった。出来れば他の監督、脚本家で観たかったわ。