『なくもんか』

これは笑える悲劇か、泣ける喜劇か・・・・・・・・・・・

『なくもんか』 ★★★☆

実は試写で観てました。最近のクドカン脚本の大はずしっぷりと前評判の低さに不安だらけで観たんですが、これが良かったんですよ。でも、これ1回観た限りじゃどうとも判断出来ない部分があってもやもやして、公開されてもう1回観たんですね。ここで既にこの映画には2回観れるぐらいのパワーはあったって言えるんだけど。私はクドカン脚本作品の大ファンなんですが、ここ最近の作品、特に映画では良いと思えませんでした。『舞妓haaaan!!!』はね。あれはもう単純にコメディ映画として最高に面白い作品でした。映画としての完成度も高かったと思います。でも、最近の脚本はな〜〜・・・・・・自ら監督した『少年メリケンサック』は脚本がいまいちだったし、『カムイ外伝』に至っては最悪と言っても良かった。あれ、クドカンだけの脚本じゃないので、監督が弄くったんだろうと思いたいです。『鈍獣』は地雷臭しまくりで観なかったし。で、今作。これはな〜〜複雑。すげー深い。でも、完成度は低い。(笑)そこも複雑なんだよな〜〜。ただ、一つの光明があったというか、この映画を観てまだまだクドカンはイケるなって確信持てたというか、これからの脚本家なのかもしれないと思えたんですよね。きっとこの人はまだまだ凄い作品を作っていけるんだろうなって、それが凄く収穫というか、嬉しかった。だから、この映画、作品としては手放しに評価は出来ないんだけど、凄く好きです。
ここではクドカンの真骨頂が見れるんですよね。それはキャラクターの多面性。いいヤツだけど、ただいいヤツだけでなく、裏がある。逆に、どうしようもないヤツなんだけど、どこか憎めないというか、どうしようもないヤツなりに救いがあったりする。今回の作品では、阿部サダヲ演じる主人公・祐太と、その息子を捨てたロクデナシの父親、そして祐太の弟・祐介の偽の兄であり漫才の相方でもある大介に見られたと思います。特に父親と大介のキャラクターは良く出来てる。1回観ただけじゃ分かんないぐらい、複雑なんだけど、よくよく考えると・・・・・・「ほう、なるほど」と深読み出来るんですよ。もし、これから見る人はこの2人の行動をよくよく整理して考えてみて見るといいかも。すると表面で見えない別の可能性も考えられて面白いと思うんですよね。とことんどうしようもない父親の起こした行動、何故、あそこに彼がいたのか?とか、一見嫌なヤツに見えるお笑い芸人・大介の言動を裏返すと実は・・・・・・・・・と。彼らの一見駄目な行動を全て肯定的に捉えると、驚くほど別の見え方がするんですよ。ここがね〜〜すげーって。ゾクっとしました。でも、ここがあまりに上手過ぎて分かり難いのもこの作品のマイナスでもあるんだよな〜勿体無い。この映画に出て来るキャラクターは本当に多面的。いしだあゆみの母親だって、もしかしたら実は認知症でもなんでもなかったんじゃないか?とか、善人そのもののような善人商店街の人々もそんなにいい人でなかったりして油断ならない。(笑)そんで究極のお人好しの主人公の祐太にも心の奥底にでっかい闇があって。きっとそこは誰にも埋められない部分だったりするんだろうなぁ。それが家族であってもさ。家族をテーマにしてるこの映画。実は、家族の大切さと同時に家族が如何に個人に対して無力かっつーのも描いてると思うんだな。どっちとも取れる。でもさ、笑える喜劇の中にどうしようもない人間のマイナスの部分も描きつつも、最後でちょっとプラスに向かうのがね。全然解決してないようでいて、実は皆が良い方向に向かってるっていう。終わりだけど、ここから先を想像出来るようなラストもいい。私はその作品内だけできっちり完結してるよりも、その先も考えられそうな余韻がある終わり方の方が好きなので、この作品のラストには凄く満足でした。ただ、色んな問題が何も解決してないって苦言も分かるんですけどねー。でも、あそこは敢えてその後はご想像にお任せに・・・・・・だからいいと思うんだけどなぁ。
ただ、凄く良い部分もあるんだけど、やっぱりとっ散らかってまとまりきれていないのも事実。そこが評価出来ない所なんですけどね。あと、この題材で上映時間2時間越えは長過ぎる。要らないシーンも沢山あったので、もっと引き算をしてコンパクトにまとめて欲しかった。終盤の唐突な沖縄イベントはかなり否定要因になってるようですが、これも納得。ただ、あそこのシーンには一杯良いセリフがあったんだけどね。さすがに唐突過ぎてついて行けなかった人が多かっただろうなぁ。あれもクドカンの悪い癖かも。綺麗にまとめるのに一種の照れがあるような感じ。笑える部分はとても笑えるんだけど、シリアスな場面との交わりが悪いのは『流星の絆』でもあったんだけど、この映画もそういう所があったかな。ただ、この映画は役者のアンサンブルがめちゃめちゃ良かったんで、そこでかなりのプラス作用になった気が。役者個々の実力もかなり高いんだけど、アンサンブルがいい。とてもいい。特に『笑い』の部分を担う阿部サダヲ竹内結子いしだあゆみの。笑いは間が重要なんだけど、この3人はお見事としか言いようがないぐらい素晴らしかった。元々、実力がある人達が波長を合わせると凄いパワーだなっと。ここが気持ち良かったです。阿部サダヲ西田敏行を髣髴とさせるようなベタベタの人情喜劇芝居にほんの少しのマニアックを絶妙に混ぜて飽きないコメディ演技になってました。そんで狂気が隣り合わせなのもサダヲならでは。すげーよ改めて。で、竹内結子は出来る人って分かってはいたけど、振れ幅の大きさがハンパない。色んな役をこなせる女優さんだよね。どんどん綺麗になっていくしなぁ。いしだあゆみがあんなに壊れた笑いを演じれる女優とは。(笑)凄いです。他に濃いキャラクターの片桐はいり皆川猿時鈴木砂羽も・・・・・・・・・・・・どれもこれも素晴らしいんだな。で、先に書いた多面性のあるダメキャラの2人、父親を演じた伊原剛志と大介を演じた塚本高史がま〜〜〜良かった。元々、複雑なキャラクターをより複雑に含みを感じられるように演じてるのね。特に塚本君は良かったなぁ。あの大介の心情が爆発するシーンは胸に迫るもんがあった。どうやらクドカンが一番感情移入してるのが大介のようなので、それもあって共感し易い良いキャラクターになってました。ただ、瑛太のキャラクターがどうにも掴み難いっつーのか、難しいキャラクターだったかなぁ。あれを多面的に感じれなかったのは残念だった。瑛太は決して悪くはないんだけど。なんか祐介ってキャラクターだけ浮いてるんですよね。そのフワフワの浮遊感が最後に着地するのが見所なんだろうけど、もう少し本当の兄弟の祐太と祐介の2人だけの繋がりが欲しかったかも。そこが希薄なんで、最後のシーンがいまいち盛り上がらない。偽兄弟の関係性の方がスリリングで面白いんだもん。ここも勿体無いんだよなぁ。あのラストに持ってくなら、もっと本当の兄弟の確執や絆を描いてなきゃ浮いちゃうんだよねー。瑛太はちと損な感じかも。

終わって振り返るとエンディングを思い出すと何故かジンとする。いきものがかりの主題歌『なくもんか』がぴったり。今は映画の為に作った主題歌ってだけで有難く思っちゃうよねー。(苦笑)うん、この映画好きですね。ダメな部分も愛しい。水田伸生監督は『252−生存者あり』ではアチャーだったんですが、この映画は合ってたと思います。基本、この監督の演出はベタなんで、巧妙で入り組んだ脚本に合ってたんじゃないかな。沖縄サミットはどうにかして欲しかったけど。(笑)クドカンオリジナル脚本映画では一番好きな作品です。もう1回観ようかなぁ。