NHK『鬼太郎が見た玉砕〜水木しげるの戦争』

フィギュアの件ですっかりフジテレビに嫌気が差し、わが家の歴史を完全スルーにしてみました。いや、単純に面白くなさそうだったから見なかったんだけどね。フジの豪華キャスト集めただけのドラマって前から好きじゃないんですよ。それでも三谷幸喜だし、話題作だからって1話目ぐらいは・・・・とか少し前までは思ってたんですけどねぇ。フィギュアの放送のせいでフジのやり方に前よりも拒絶反応が強くなってしまったのは事実。

あ、『鬼太郎が見た玉砕』の話だ。これは評判が良かったんで前から見たかったんですけど、朝の連続小説で『ゲゲゲの女房』を放送するに辺り、深夜に再放送されたので録画して見ました。凄く凄く良かったです。NHKは評判の良い作品は何回も再放送してくれるので、機会があったら見て下さい。これは若い人にこそ見て欲しいなぁ。今までもえげつない戦争の話は見ましたけど、このドラマの戦争は本当に酷いもんで。こんな事がほんの65年も前に実際起こってたなんて信じられないです。あの中で水木しげる先生が生き残ったのも。きゅーって胸が締め付けられました。

これはタイトルに「鬼太郎が見た玉砕」とあるように、このドラマは戦争から生き残って、漫画家として『ゲゲゲの鬼太郎』を描いている水木しげるが、不思議な体験をきっかけに戦争時の体験を漫画に描いて行く昭和40年代の頃の話と、その漫画に描かれている水木しげるの実体験としての戦争の話が平行に進んで行きます。その戦争の描写なんですが、語り口が湿っぽくないし、香川照之が演じる丸山(水木しげるの分身)がとても人間臭く可愛らしいんです。だから、余計に辛い。今までありそうで無かった戦争ドラマかもしれません。明石家さんまを主演に据えたTBS『さとうきび畑の唄』と切り口は似てますけど、このドラマはもっと悲惨な兵士の実態が描かれているのに、描き方が妙にカラっとしてて湿っぽくない。でも、それがより現実的に感じられて兵士が死んで行く様がより悲しくて怖いんですね。兵士達の凄惨な死の描写は水木しげるの漫画に差し替えられてるにも拘らずね。身がキリキリきしむような辛さでした。俳優が良かったんだろうなぁ。主演の香川照之がもう腹が立つほど上手くてね。水木しげる先生の事なんて全然知らないのに、きっと水木しげるってこんな人なんだろうなぁって思えるんですよね。水木先生は戦争で左手を失くされてるんですが、その手の無い演技も凄く自然。香川照之の凄さに改めて脱帽でした。いや、本当にスゴイんですよ。奥さん役の田畑智子も良かったなぁ。このドラマに出てる俳優はちょこっとの端役の人も含めてみーんな良かったです。戦争編の石橋蓮司塩見三省北村有起哉なんてキャスティングはまるで水木先生の漫画から抜け出て来たみたいな個性的なビジュアルでハマってたなぁ。この辺りの人々がどんどん死んで行く様は本当に辛かったです。でも、悲惨なばかりでなく、救いもあって良いドラマになってたなぁ。文化庁の芸術賞を取ったっていうのも分かる。こういう地味な良作にこそ賞を与えてクローズアップして欲しいですね。
水木しげるの代表作である『ゲゲゲの鬼太郎』の鬼太郎やねずみ男、目玉のおやじってキャラクターが漫画から飛び出して、水木先生が漫画を描いてる姿を眺めてるなんて遊び心的な演出もあって面白かったです。そのキャラクターがアニメの声優のままっていうのもサービス心でしょうか。声優っつっても戸田恵子アンパンマン)や高山みなみ(コナン)じゃないですよ!野沢雅子(おっすオラ悟空)の方です。私の耳に最も馴染みのある鬼太郎で良かった。(笑)目玉のおやじとねずみ男も耳馴染みな初期のアニメ声。墓場鬼太郎と同じですね。田の中勇氏が亡くなってしまったのは残念で仕方ないなぁ・・・・・。

恥ずかしながら水木しげるが左手を失っていたなんて全然知らなかったです。片手であんな綺麗な線が描けるなんてスゴイ。でも、それを全く苦にもしてない風な豪快な人柄も素晴らしいですね。なんか水木先生の生き様に色々と教わりました。現在88歳。戦争で亡くなった大勢の人達の為にも楽しく長く生きてらっしゃるんだなぁ。このドラマを見て、原作の『総員玉砕せよ!』も読みたくなったので、注文してみました。多分、悲惨な内容だろうから、読むのに勇気が要りますけど、先生が渾身の気持ちで書いた作品を読むのが楽しみです。


公式サイト:『鬼太郎が見た玉砕〜水木しげるの戦争』

総員玉砕せよ! (講談社文庫)

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